国際観光都市の一翼を担う天然記念物「奈良のシカ」
一般財団法人奈良の鹿愛護会
会長 大川靖則
奈良公園に生息する鹿は、奈良の歴史と関係がとても深く、現存する日本最古の和歌集「万葉集」にも詠まれているように、春日野(現在の奈良公園)一帯には、古来より野生の鹿たちが生息しています。約1300年前には平城京鎮護のため、神様が白鹿の背に乗り御蓋山(みかさやま)に入山されたという伝説から、神鹿(しんろく)として保護敬愛されるようになりました。
その後、明治の初期や戦中戦後の混乱期に頭数が激減するなどの危機を乗り越えて、今から60年前の1957(昭和32)年には、国の天然記念物「奈良のシカ」として指定を受けました。奈良公園内各所に群れ遊ぶ天然記念物「奈良のシカ」は、奈良公園の名物であり、また都市の近くで人々が自由に野生動物に親しめる他に類のない非常に貴重な存在でもあります。
現在、奈良公園には約1,200頭の野生の鹿が生息していますが、とりまく環境は決して鹿にとって快適なものとは言えず、その生命もおびやかされてもおります。特に、保護施設である鹿苑(ろくえん)には人との共存共生していく中で、様々なトラブルを抱えた鹿が約300頭保護されています。これ以外に春期には、母鹿が安心して出産や子鹿たちのお世話をできるように妊娠している雌鹿を、秋期には立派な角を持った雄鹿たちを保護収容しています。
鹿苑は、保護育成の活動拠点として、6月には母子鹿の特別公開、毎年10月の奈良を代表する伝統行事「鹿の角きり」、また年間を通して鹿苑施設の一般公開、ドングリの寄付など沢山の方々にお越しいただいております。
鹿については、生態の話など色々な話はありますが、国際文化観光都市の奈良は、約1300万人の方がおいでになります。アンケート調査でのトップは、「東大寺の大仏様」と「鹿」だったそうです。このように鹿は、天然記念物として指定されただけのことはあるのではないか、そして国際文化観光都市である奈良の一翼を担う鹿を多くの皆様と一緒に考え、人と鹿がよりよい関係で共生できる適切な保護育成を進めてまいります。