鹿のニュースで思うこと

今週の火曜日、奈良のシカを刃物で殴打して死なせたとして、男が逮捕されました。
このニュースに対して、多くの人は「なんてひどいことをするのだ!」と憤り、男の行為への非難がネット上では飛び交っています。

もちろんこんなひどいことは許せませんが、男の発言で一つ気になることがあります。報道によると「鹿が自分の車に体当たりをしてきたので腹が立ち、鹿の頭を切りつけた」と言っていることです。

普段、鹿の治療を行っており、治療鹿の世話もしている身として、鹿が人に体当たりする理由はいくつか思いつきます。例えば、鹿が何かに驚いて急に駆け出した時、たまたまその進行方向に人がいた場合。鹿の進行方向には、鹿の気を引こうと何か食べ物を与えようとする不届き者がいる場合もあります。

実際、私が車を運転していた時に、春日大社の参道内の木の枝を折って葉を鹿に与えている人がいました。鹿は葉を好んで食べます。この時、葉っぱにつられてたくさんの鹿が道路を渡っており、私は車にひかれないかひやひやしました。もちろんこの人には「危ないから絶対にやめてください。そして公園内の木を折ることもだめです」と注意しました。

それ以外に鹿が人に突進する理由として考えられるのが、母鹿が子鹿を守ろうとする場合、または雄鹿が発情期で戦っている最中に人が運悪く巻き込まれる場合などです。

しかし、鹿が車に突進する理由は特に思い当たりませんし、車に体当たりする様子を見たこともありません。逆に車が鹿に体当たりすることならいくらでもありますが。

車に体当たりされて今回のケースのように悲惨な死に方をする鹿は、報道されませんがたくさんいます。

私が見てきてひどいな、と思ったトップ3を挙げてみると、まずは左右の骨盤が両方とも折れてしまった年老いた雌鹿。おそらく大型車に後ろからぶつけられたのでしょう。立ち上がることもできなくなり、エサも受け付けず、一週間足らずで死亡しました。

次は車に体を巻き込まれ、全身の皮膚と筋肉が裂けて臓器がむき出しになり、交通事故から数時間後に死亡した子鹿。全身血だらけで鹿苑に連れてこられたときはまだ息がありました。でもどうしてあげることもできませんでした。

最後は車にあたって、3本の肢を骨折した子鹿。そのうち2本の肢は折れた部分の下の細胞が死んでしまったので、命を助けるために手術で切断しました。結局それでも助からず、その後息を引き取りました。

今回のニュースはショッキングで、驚かれた方も多いと思いますが、ニュースにもならないところで、たくさんの鹿たちが犠牲になっています。

奈良のシカを車でひいても、故意に殺そうと思ってひかない限り、罪に問われることはありません。しかし「かわいそうなことをした」と言って、奈良の鹿愛護会に連絡してくれる人はほとんどいません。

本当は、なぜ鹿がひかれたのか、その時の状況はどうだったのか、こちらとしては今後の対策を探る上で、事故を起こした人にいろいろ聞きたいのです。そうすれば、悲しい事故は減るかもしれません。でもひき逃げされてしまうと、そういう情報が得られず、鹿も浮かばれないのです。

獣医師

交通事故で寝たきりの子鹿
交通事故で前足を失った鹿

“鹿のニュースで思うこと” への4件の返信

  1. 二度とこのような事件が起こりませんように。亡くなられた鹿さんの御冥福を心よりお祈りいたします。

  2. 最近 鹿に餌 野菜とかパン屑等 家から車ら自転車で持って来てあげてる人が多く見受けられます また写真を撮るために餌をあげてる人 凄いのは車で高い木の枝を切る道具(伸縮機能のある)を持って来て枝を切り 鹿はこの木をよく食べるんやって言っている人が 浮御堂近くの甲種便所のところに居ました 道路にいっぱいになるほど切っていました 気持ち的には悪気はないと思って むしろいい事をしていると勘違いしてやっている 困った人たちも多く見受けられます 時間帯は特に決まってはいないと思いますが 公園をウォーキングしてると公園のどこかで1人には会うことが多いです
    なんとか法律で取り締まる パトロール回数を増やしていただくなど お忙しいとは思いますが よろしくお願いします 

  3. 私も、仕事に行く途中のバスで、交通事故に遭った鹿を見かけました。
    当然、愛護会の方には連絡をしました。
    その時思ったのは、なぜ車でぶつかった人は放っておく事が出来るの?
    何故、警察に届かないの?って思いました。奈良公園近くを走るドライバーさんは、少しスピードを落として、周りに配慮しながら走って欲しいです。
    少しでも事故が減って欲しいです。
    そして、今回の様な事件が二度と怒らない事を願います。

  4. 共感します。
    今後、事故数が改善できるよう願ってます。また、協力できることがあれば 鹿を守る私たちが最善尽くします。

    本当に心が痛く、それ以上にたくさんの鹿たちが辛い経験をしてるのは何もせずにいれません。
    人間である私たちが 行動に移し1頭でも大切な命を守れるよう 人間側の心理状態や状況把握などしなければいけないと思いました。

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