V.奈良のシカの生態
(1)奈良のシカの行動
奈良のシカの一日の始まりは日照と密接な関係にあり、夏は日の出の数分前から行動を開始し、冬は薄明の日の出の30分以上前から行動を開始する。 |
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そして「朝の泊り場」から採食場へ移動し、シカは1〜数頭に分かれて1〜2時間採食する。
採食後は数頭単位で採食場から去り、ゆっくりと日中休息する場所「休み場」へ向かう。
この休み場で、朝9〜10時頃から夕方まで滞在する。 |
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採食場(飛火野) |
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「休み場」では2つのタイプに分かれ、人に慣れているシカのほとんどは観光客からエサ(鹿せんべい)をもらって食べ、一方、人の来ない茂みの中で休んでいるシカ達は、人が6〜7mに近寄ると警戒して立ち上がり、さらに近づくと逃げる。
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午後3時を過ぎると、歩き回ったり採食するシカが目立ちだし、「夕方の泊り場」への移動は
1〜数頭で採食したりしながら行われる。 |
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泊り場 |
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日没後、あたりが真っ暗になってしばらくすると、ほとんどのシカは泊り場に座り込んで反芻しながら休息をとる。
2〜3時間休息した後、再び立ち上がって採食する。
午前2時頃まで採食を続けたのち、「朝の泊り場」で反芻しながら休息をとる生活をしている。 |
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(2)ホームレンジ
個体の行動圏の面積10〜20haで特定の休み場、採食場、泊り場をもち、ほぼ決まったルートに
沿って移動し、行動圏の年周期的変化はほとんどない。
発情期以外の季節では、オス、メスそれぞれ異なる社会組織をもつ。
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朝・夕にシバ草地などで、オス・メスがいっしょに採食し、グループを形成することもあるが、その経過を長時間追跡すると、オスとメスは次第に分裂し、オスはオス、メスはメス同士で移動し、別々の休み場や泊り場に入ることが多く、両性による安定的な群れ形成はほとんど認められない。
オスとメスは別々の生活体系によってその社会を組織しているように思われる。 |
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【発情期 】
☆発情期のオスの行動パターン
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(A)前足蹴り(泥かき)
頭を下げて、片前足で土・芝・泥水などを後方へ蹴る行動でできた皿状の穴をシカ穴という。 |
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(B)泥浴び(ヌタうち)
水たまり・池の浅瀬・小川に座り、泥を首などへこすりつける行動で
、その場所をヌタ場と呼ぶ。
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(C)こすりつけ
@裸地・芝地・水たまりに座って首や顔の左をこすりつ けたり、首を前に伸ばして喉のまわりをこすりつける。
A立ち姿勢で木の幹や石に首をこすりつける。
B立ち姿勢で角座の間(額)を木の幹などにこすりつける。
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C立ち姿勢で眼下線の部位を木の幹や石に首をこすりつける。 |
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(D)においかぎ
地面、主に芝地やメスジカの尻に鼻を近づけてにおいをかぐ姿勢。 |
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(E)フレーメン
首を伸ばし角が背に触れる程のヘッドアップ姿勢で、上唇部を引きつらせて歯を見せる行動。
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(F)角を用いる行動
@枝・草を角にからませたり、泥・芝地を角で引っかいたりついたりする。
A木の幹や石などに角をこすりつける。 |
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(G)角の突き合い
@極めて攻撃的な突き合い。
A余り力を入れない軽い突き合い。 |
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(H)ヘッド・アップ・ディスプレイ
口を上に上げ、角を後ろにそらし、頭を固定される行動。 |
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(I)ヘッド・ダウン・ディスプレイ
立ち姿勢で、他個体に向けて頭と角を下げる行動。 |
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☆オスジカのメスジカへの接近と行動 |
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(A)グルーミング
自分の体をなめて毛づくろいする時と他の個体へ行うときがある。
(B)口づけ
座っている個体に近づき、口や鼻を相手の口や鼻に近づけ、一方あるいは互いににおいかぎしたり、舌で舐める行動。
(C)足踏み
立ち姿勢で相手に向きながら、片前足を数回上下する行動。
(D)囲い込み行動
メスがオスのレンジ(なわばり)から去ろうとしたり、オスから離れ去ろうとしたとき。
オスがメスの進行方向前方に走っていき、メスの移動を妨げる。
その後、3〜5mにいるオスはメスが再び移動しようとすると再び妨げる行動。
(E)メスへの接近と交尾行動
@メスへのオスの接近
A接近を許したメスの尻(外陰部)をにおいかぎしたり、尻(外陰部)などをなめる。
Bオスはメスの後ろから両前足を上げ、同時に前に進んでマウントする。
Cマウント姿勢から交尾行動をし、マウント後はオス・メスが別れることが多い。 |
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(交尾について)
発情したメスに対してオス成獣は執拗にローストレッチ行動で接近する。
メスが充分発情していればオスはマウントする。
通常1回のマウントで交尾は終了しない。交尾の成功まで続けられる。
射精所要時間はマウントも入れて1〜4秒を超えない。
9月下旬にはじめて観察され、10月上旬・中旬にもっとも頻度が高くなる。以後次第に減少していく。
ほとんどの交尾は12月上旬までに終了するが、1〜3月にも少数の交尾が観察される。 |
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(4)寿命
平均寿命 ♂ 3.3才 ♀4.4才 (当会)
最高年令 ♂ 21才 ♀27才 (奈良公園)
♂ 6才前後 ♀8才前後 (野生ジカ)
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(5)シカの食性
@シカの主食
奈良公園のシカの食性は、1年を通じて、シバ、ススキ、他のgraminoid(イネ科及びカヤツリグサ科などの総称)が占めており、そして、食性の内容により、奈良のシカたちは大きく2つのタイプに区別することができる。
ひとつは奈良公園の大部分である平坦地に生活するシカ、これを「公園ジカ」、もうひとつは、「若草山のシカ」である。
「公園ジカ」にとってはシバが最も重要なエサで、冬は双子葉植物(シダ植物、蘚苔類なども含む)が半数を占めるようになる。
一方、若草山のシカにとっては、春にはススキ、夏と秋にはシバが非常に重要であり、冬でも大部分がgraminoidで占められ、双子葉植物が増加することがない点が「公園ジカ」と異なる。
このように、シバに強く依存する点で奈良のシカの食性は、他地域の野生のニホンジカのそれと大きく異なる。 |
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「若草山のシカ」 |
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「公園ジカ」 |
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シバ地では、写真のように下草も含め、美しく刈り込まれている。
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Aシカの不嗜好植物
・木本植物
高木 : ナンキンハゼ、ジャケイバラ、イヌガシ、カゴノキ、イズセンリョウ、ナギ
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ナンキンハゼ |
イヌガシ |
イズセンリョウ |
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ナギ |
カゴノキ |
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低木 : ヤブニッケイ、コガンピ、レンゲツツジ、クララ、クサギ、アセビ
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アセビ |
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・草本植物
シダ植物 : オオバノイノモトソウ、ウラジロ、
コバノイシカグマ、ナライシダ、
ベニシダ、イワヒメワラビ
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イワヒメワラビ |
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双子葉植物 : ヨウシュヤマゴボウ、マルミノヤマゴボウ、テンナンショウ、レモンエゴマ、
マムシグサ、マイズルテンナンショウ、クリンソウ、クサイ、ナンバンギセル、
ナガバヤブマオ、ダンドボロギク、マツカゼソウ、イアザミ、イヌコウジュ、
ウラシマソウ
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マルミ
ノヤマゴウ |
イラクサ |
レモンエゴマ |
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イラクサの群生地 イワヒメワラビ、マルミ ノヤマゴウ |
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(6)ディアーライン(鹿摂食線) |
樹林の下層(190〜195cm位までの高さ)の下枝や下草がなく、遠くまで見通しがよくなっている状態。
この景観は、森の190〜195cm位の高さまでの下層植生や下枝を、シカが食べるためにできる。
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ディアーライン(鹿摂食線)
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ナンキンハゼ |
カゴノキ |
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不嗜好植物の群生地では、ディアーラインが形成されない。
シカの好まない植物は、そのままの姿で群生する。 |